「頑張れば治る」は間違い?メンタル不調が「気の持ちよう」ではない理由
身近な人が心の不調を抱えている時、「頑張ればきっと良くなるよ」といった言葉をかけたり、あるいは自分自身で「もっと気丈に振る舞わなければ」と考えてしまったりすることはないでしょうか。しかし、メンタル不調は単なる「気の持ちよう」や「精神力の弱さ」で起こるものではなく、安易な励ましが逆効果になってしまうこともあります。
この講座では、なぜメンタル不調が「気の持ちよう」ではないのか、その理由を分かりやすく解説し、大切な人の心の状態を正しく理解し、どのように寄り添えば良いのかについてお伝えします。
「気の持ちよう」では解決しない理由
メンタル不調が「気の持ちよう」で解決しないのには、明確な理由があります。これは、個人の意志や性格の問題ではなく、脳の機能や身体の状態が深く関わっているからです。
1. 脳の機能や神経伝達物質の関与 私たちの心は、脳という臓器の働きによって感情や思考が生まれています。脳の中では、神経伝達物質と呼ばれる化学物質が情報伝達の役割を担っています。例えば、気分や意欲に関わるセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンといった物質のバランスが崩れると、心の不調として現れることがあります。これは、糖尿病でインスリンが足りなくなるのと同じように、体の仕組みが正常に機能しなくなる状態と考えることができます。意志の力だけでこのバランスを元に戻すことは、非常に困難なのです。
2. ストレスによる身体への影響 強いストレスや長期間にわたるストレスは、脳だけでなく全身に影響を及ぼします。自律神経の乱れ、ホルモンバランスの変化、睡眠障害など、様々な身体症状を引き起こすことがあります。これらの身体的な変化は、さらに心の不調を悪化させる悪循環を生み出すことがあります。例えば、強い疲労感や身体の痛み、食欲不振などは、本人の努力ではどうにもならない身体のサインです。
3. 環境や遺伝的要因の影響 メンタル不調の原因は一つではありません。ストレスの多い環境、過去のトラウマ、遺伝的な要因、生活習慣など、様々な要素が複雑に絡み合って発症します。これらの要因は、本人の努力だけで簡単に変えられるものではありません。例えば、幼少期の体験や職場の環境が原因である場合、本人がいくら「頑張ろう」と思っても、根本的な問題が解決しない限り、回復は難しいでしょう。
よくある誤解を解き、正しい理解へ
「気の持ちよう」という言葉の裏には、「本人の努力が足りない」「甘えているだけ」といった誤解が隠れていることがあります。しかし、メンタル不調は「甘え」や「怠け」とは異なります。
1. 病気としての理解 心の不調は、身体の病気と同じように、専門的な治療やケアが必要な状態です。例えば、風邪をひいた時に「気の持ちよう」で治そうとしないのと同じように、心の不調にも適切な対応が求められます。うつ病や不安障害などは、世界保健機関(WHO)も病気として認識しており、適切な診断と治療を受けることで回復が期待できます。
2. 個人の責任ではない メンタル不調は、本人の性格や人間性が原因で起こるものではありません。誰もが経験する可能性のある健康問題であり、本人が自分を責める必要はありません。また、周囲の人が本人を責めることも、回復を妨げることにつながります。
私たちにできること、寄り添い方
大切な人が「気の持ちよう」では解決しない心の不調を抱えている時、私たちにできることは何でしょうか。
1. 「助けが必要なサイン」として捉える まずは、「気の持ちよう」ではなく「助けが必要なサイン」として、その人の状態を理解しようと努めることが大切です。無理に励ますのではなく、まずはその人の辛さに耳を傾け、共感する姿勢が求められます。
2. 共感と傾聴の重要性 本人の話にじっくりと耳を傾け、その辛さや苦しみに共感することから始めましょう。アドバイスや解決策を提示する前に、「そうだったのですね」「大変でしたね」といった言葉で、相手の気持ちを受け止めることが重要です。相手が安心して話せる環境を作ることが、第一歩となります。
3. 専門家への相談を促す 心の不調は、一人で抱え込まずに専門家へ相談することが回復への近道です。精神科医、心療内科医、カウンセラーなど、様々な専門家がいます。もし相談を促す際には、「あなたのことを心配しているから、専門家の意見を聞いてみるのもいいかもしれないね」のように、相手を尊重し、安心感を与える言葉を選ぶと良いでしょう。相談先については、このサイトの他の記事も参考にしてみてください。
4. 自分自身の心のケアも大切に 大切な人のサポートは、時に大きな精神的負担を伴うことがあります。無理をして自分自身が疲弊してしまわないよう、適度な休息を取り、自分の心の状態にも目を向けることを忘れないでください。
まとめ
メンタル不調は「気の持ちよう」ではなく、脳の機能や身体、環境など様々な要因が絡み合って生じるものです。このことを理解することで、私たちは大切な人の苦しみに寄り添い、適切なサポートを提供できるようになります。無理な励ましではなく、共感し、耳を傾け、必要に応じて専門家への相談を促すことが、回復への大切な一歩となるでしょう。